第35章

「ええ、前回の画家の中で年上さんがとても気に入ってくださって、今回わざわざまた一枚選びに来てくださいました」

樋口浅子は微笑みながら言った。「それは素晴らしいですね、こちらへどうぞ」

男性はギャラリー内をしばらく見回した後、一枚を選び、あっさりと代金を支払った。

「ここの絵は本当に質がいいね。描き方も悪くない。次も必要があったらまた来るよ」

「ご贔屓にありがとうございます」

樋口浅子は微笑みながら絵を丁寧に包装し、男性に手渡した。男性は絵を受け取り、「ありがとう」と一言言って、背を向けて立ち去った。

樋口浅子は男性の去っていく背中を見つめながら、心の中でため息をついた。

残され...

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